さて、豚血下地の概要について、文献に記載の情報を参考におさらいします。
今回、参考にした文献
■文献① 三山 喜三郎 「琉球漆器調査報告書」 『工業試験所報告 第四回』 (東京)工業試験所 明治41年
■文献② 澤口 悟一 『日本漆工の研究』 丸善 昭和8年
■文献③ 伊禮 綾乃 「沖縄の豚血下地について」 『よのつぢ 浦添市文化部紀要 第3号』 浦添市教育委員会文化部文化課 平成19年
まずは、主な材料について。
・クチャ:沖縄特産の多量の石灰分を有する灰色の粘土
・豚血:採取後6~7hr以内に使わないと腐敗する
・煮桐油:桐油を3~4hrほど中火で加熱し、火を止めて5~6%の光明丹を混合し、撹拌しながら放熱する(約5hr~)
・光明丹:鉛丹ともいう。一酸化鉛を 400~450℃に長時間加熱してできる。明るい赤色の重い粉末。有毒。 500℃で分解する。
・ニービ:沖縄本島中南部に見られる第三期砂岩を金槌で粉砕し、ふるいにかける。
・シナ:与那原町海岸の砂。塩抜きし、乾燥させてふるいにかける。
次に、豚血下地の配合について。
そして、下地全体の工程について。
■文献① 下地工程
1 豚血下地に砂や木屑・紙繊維とを混合したものを用いてコクソかいをする
2 豚血下地にて寒冷紗を貼る
3 豚血下地に砂を混ぜて下地付けをする
4 空研ぎ
5 下地付けをする
6 水研ぎ
7 仕上げの下地付けをする(「ヒロ地」という)
8 水研ぎ
9 生漆+菜種油or生の桐油で摺漆
10 軽石粉と水で磨き上げる
11 生漆で摺り漆
12 生漆で摺り漆
■文献② 下地工程
1 地付け 豚血下地+ねび土+細砂+煉瓦粉
2 豚血下地 ヘラ付け
3 豚血下地 ヘラ付け
4 研ぎ
5 摺漆 生漆+菜種油=10:1で摺漆
6 胴擦り 水と炭粉or軽石の粉をつけて、布で磨く
↓
中塗り
↓
上塗り
■文献③ 下地工程
1 コクソ埋め デイゴ木地の芯を刳り抜き、そこにデイゴ材を打ち込む
2 ニービ地 コクソ埋めした箇所にニービ地(豚血下地+ニービ)を塗る
3 研ぎ
4 紙・布着せ 豚血下地で紙・布を着せる
5 キーカシ下地 豚血下地+木屑をヘラで全体に塗る
6 研ぎ
7 シナ地 豚血下地+砂(豚血8:砂2)をヘラで塗る
8 研ぎ
9 ニービ地 豚血下地+ニービをヘラで塗る
10 研ぎ
11 豚血下地 豚血下地 をヘラで塗る
12 研ぎ
13 化粧地 豚血下地 を薄くヘラで塗る
以上のように、文献によって豚血下地の配合比率や工程は結構まちまちです。
しかし、現在の漆工芸の下地工程も、産地や工房・職人さんによって配合も工程も差異がある事を考えれば、そういう個性の範疇とも言えます。
しかし、現在の漆工芸の下地工程も、産地や工房・職人さんによって配合も工程も差異がある事を考えれば、そういう個性の範疇とも言えます。
やわらかくしたり、ねばりをだしたりするために、豚血や煮桐油の配合量を調整するような運用もされていたようですので、配合量のバラツキにはおおらかでもいいのかもしれません。
さて、今回のシリーズでは「まずは豚血下地をさわってみよう!」ということで、細かな材料の配合や工程などの比較検討は省き、「材料を用意して、混ぜて、下地付けをしてみる」体験をすることを目的としての予備実験を行いたいと思います。